子供の頃、実家で飾っていたものを、数年前、父親が納戸から出してきて北海道まで送ってくれたのである。結婚するとも移住するとも言わず、何となく「行ってみるわ、やってみるわ」で飛び出して来たのだけれど、多分おひな様を送る気になった父にすれば、(どうもあっちで本格的に結婚した模様。。)という心境になった年だったのだろう、と推測する。
湿気の高い高知の実家では、納戸に仕舞って置いたものは、もれなくカビの応酬を受け、悲惨な最期を迎えるのだが、「これは奇跡的に大丈夫じゃった」の父の言葉通り、昔のままの姿で何年何年も、息をひそめていたようである。
オプションとして、金屏風とボンボリ、それからお弁当箱の3点セットが付いている倹約タイプなのだが、ボンボリの紙の部分だけは破れていた為、父がキッチンペーパーを丸めて、なんとなくそれらしく修繕はしてくれていた。
子供の頃は、節分が終わると本堂横の小さな和室の床の間に、おひな様が飾られた。その前に正座させられ、おばあちゃんが「かいらしいのうし、のう、アヤ、かいらしいのうし」と言うのを、黙って聞いていた。リカちゃん人形全盛の時代、友達のリカちゃんの頭髪をオール丸刈りにし、物議をかもし出していた猟奇的少女であった為、当然おひな様にも全く興味が無かった。興味が無いどころか、呪わしくさえあった。
この時期になると、女の子の自宅にはどこもおひな様が飾られ、それらを鑑賞して周る、みたいなことが一つの遊びとなっていた。どこのお宅へ行っても、綺麗な色のアラレやら、甘酒やらが出てきて、そんなものが出てくるのは大体、お母さんやおばあちゃんがいつもお家にいて、3時になったら手作りのお菓子が出てくるような家庭だった。そういうお家の女の子は、毎日ちゃぶ台の上に置かれた50円玉を握りしめて駄菓子屋に走り、赤色何号とかの食品添加物でベロを真赤にしながら、男子と鮒釣りに夢中になったりはしないもの。
「アヤちゃんとこ、なんで1段なの!?」
そう言われるのが恐怖だった為、なるべく自宅付近に友達を近づけないようにし、神社などで遊ぶようにした。どこのお家も7段飾りが主流だったのに、我が家のおひな様はお内裏様とお雛様だけ。飾りものは金屏風にボンボリにお弁当箱。その横に、父が趣味の盆栽の小品などをディスプレイし、少女的にはかなり恥ずかしい展開となっていた。何となく、我が家がやや経済的に貧しい部類に入るのではなかろうか・・・そんなことを肌で感じ始めたのも、この頃である。
1段飾りなのはもとより、下膨れの顔立ちも、少女達の「何故!?」の対象に。。。
ひな祭の度にやってくる憂鬱と恐怖は、成長するにつれ、形を変え得体の知れないものとなって襲ってきた。(女になどなりたくない!男子には絶対に負けたくない!)そんな自分の気持ちとは裏腹に、恐怖がどんどん迫って来た。
背が低く、成長曲線もぼんやりした自分でも、なんとなく胸のあたりに異変を感じ始めていた。背の大きい子達は、次々とブラジャーを装着し始め、自分は何とか事態を回避しようと、胸に包帯を巻いてみたり猫背になってみたりと涙ぐましい努力を重ね、だまし騙しなんとかシュミーズで6年生まで通した。
決定的だったのは、5年生で行われた通称「ロリエの授業」。保健体育の一環で、初潮についての授業だったのだけれど、新しく増設された校舎の新館3階に女子のみが召集され、斜光カーテンが引かれた真っ暗闇の中でその授業は行われた。今思えば、スライドを使用した授業だった為の斜光カーテンなのだけれど、当時はもう、(男子には絶対にバレテはいけない、何があっても!口が裂けても!!)そんな脅迫観念が女子間に張り詰めていた。
ロリエの授業から教室に戻る途中、階段の踊り場で男子数名が「ロ、リ、エ!ロ、リ、エ!」とはやし立てており、私の中の何かが炸裂した。すれ違いざまに「お前も、ロリエかやあ?」、と呟いた男子に「なんじゃ、この出目金!!」と組み付いて大喧嘩になり、鼻血騒ぎになった事を鮮明に覚えている。その彼も、今では立派なお父さんだ。
しかし、女子の中には男子に禁断のロリエを吹聴する者もいて、そういう男子に取り入ろうとするような裏切り者は、大抵お姉ちゃんが居るとかで、その手の話に精通している早熟女子の割合が高かった。
ロリエの授業の後は、もう目の前が真っ暗だった。毎日、恐怖に怯えながら暮らしていた、と言っても過言ではない。大人になったら、毎月毎月あっから血が出て、そのたんびに、あの大きくてガサガサした座布団みたいなモンを挟んで生きていかなくてはならないなんて。本気で死んだ方がマシだと思った。世の中の女の人は、良く平気で生きているものだと関心した。自分の母親でさえも、(正気か!?)と思い始めた。その後、成長するにつれて、ロリエの恐怖は男子生徒への恐怖へ、男子生徒への恐怖は結婚の恐怖へ、結婚の恐怖は出産の恐怖へと、めくるめく展開を見せていった。二十歳半ばくらいまで、女に生まれて来たことをどこかで呪いながら、生きていたように思う。
Mr.お内裏
夜が白々と明け始めた頃、長男のF太郎がいそいそと、起き出して来た。姉のおひな様を、ひとつひとつ丁寧に飾り始めるF太郎。そんな彼の横顔を見ていると、本当は女の子に生まれたかったのではないだろうか。。。と思ったりして。
F太郎が飾った、おひな様カップル
母のと娘のおひな様、完成!!
記念撮影の為、スカートを履かされ、あからさまに不機嫌になる長女。お前もか。。。
3月3日は雛祭り。
大人になった今の方が、その日が待ち通しいなんて。
女に生まれて、良かったなあ。。。
アヤ
あなたらしいと笑ってしまいました!
また長女はあなたにソックリ!!
投稿情報: アリス | 2012/03/01 22:05
アリスさま
長女が瓜なのは、お互いさま!今度、お互いの長女並べて昔の自分らを回想したいわ。。。
そのうち、女子高時代の話も書くわけで。ギシシ。
音信不通、不義理な私にいつも愛の手をありがとう!!今年は同窓会やるで、シキリシタン宜しくう♪
投稿情報: あや | 2012/03/02 12:43
おもしろかったー すばらしい!!
あやさんの猟奇的少女時代、、、おもしろい。
投稿情報: さち くまのやふじと | 2012/03/07 15:45
さち様
すばらしくは無いと思いますが、ありがとございます!今度、ゆっくり少女時代談義でもしたいものですね。掘ったら出るわ出るわ。。。だったりしてん♪ご家族の皆様にもまたお会いしたいです。ありがとう、嬉しいです。
投稿情報: あや | 2012/03/07 16:32
うわ〜
麦ちゃん、文ちゃんにそっくりになってきた〜♡
投稿情報: nave | 2012/03/09 23:35
naveさん
きゃあ~~~!naveさん!!naveさんにコメント頂いたことが、まず嬉し過ぎます!!!
そうです、娘と私がそっくりらしく、最近「お母さん、麦ちゃんにそっくりですねえ。。」って言われるんですけど、「ちゃいます、娘が私にそっくりなんです」と訂正すること度々。私が元祖ですww。これからも宜しくお願い致します♪naveさん。。。。。
投稿情報: あや | 2012/03/10 10:52