2011年1月9日、コルカタ(カルカッタ)・ガヤ駅
前日の夜、何処へ向うとも知れない膨大な数のインド人でごった返した、コルカタ・ハウラー駅からブッダ・ガヤー目指して列車に飛び乗った私達は、心細い2枚の落ち葉のようだった。
取り合えず確保した寝台車の冷たいシート上下に各々のシュラフを広げ、列車の振動に身をまかせながら運ばれていくのは心地良い。車輪がガタン、ゴトン、とゆっくり回り始め次第に加速する時、その振動は私の心臓の鼓動とゆっくり混ざり合う。そして加速するたびにゴーっという金属音の混じった叫びと共に、外の風景が1秒後ろの過去に流れていくのを実感する。列車がさらに加速を増し、いよいよその速度が一定になった瞬間、もう私の心臓と線路の鼓動に境界線は無い。
Mはもう寝息をたてている。
バッグから宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を取り出した私は、背中に感じるガタン、ゴトンに覚醒しながらも、この1冊との物凄い運命に、深く感動する。列車で読もうなんて意図していなかった。
隣のインド人が、モバイルから流れるインディアン・ポップスのチャンネルを変える。初めてコルカタの町に降り立った夜に、タクシーの中で聴いたのと同じ曲だった。その上のインド人が噛みタバコをやりながらこちらを見下ろしている。忙しく行き来していたチャイ屋は、もう居なくなっていた。
インディアン・ポップスも噛みタバコの匂いも遠くなるころ、私は銀河鉄道の夢を見た。時々寒さで目が覚めても、シュラフの中で身を縮めればまた夢に戻れる。そんなことを何度繰り返しただろう。夢の中で、車窓から沢山のモノを眺めた気がする。頭のどこかが醒めていて、(ああ、なんてシアワセなんだろう)と想っていた。「自分は今、銀河鉄道に乗っているのだ」、と。
物凄い寒さで最後に目を覚ました時、もう夢に戻ることはなかった。反射的にカムパネルラを探した。夢を見ながら泣いたのは久しぶりのことだったし、カムパネルラはどこにも居なかった。
ギョっとして上段に目をやると、ほとんど同じ顔の向きで、Mはまだ気持ち良さそうに眠っていた。
もう一度眠ればカムパネルラに会えるかもしれない・・・・・
そう思いシュラフを口の上まで被った時、インド人が「ガヤ、ガヤ!」と叫んだ。私は大慌てでMを揺り起こし、シュラフを袋に詰める間もないまま引きずって外に出た。Mも寝ぼけ眼で靴を両手に引っさげて、裸足のまま外に出た。インド人がバックパックをホームに投げてよこしたので、その時やっと頭が到着を認識した。
夜明け前のガヤの駅はひんやりと冷たく、深い霧に包まれていた。ショールを肩にかけたインド人のシルエットが、そこかしこにほっそりと浮かびあがっている。誰一人としてその表情が見えないほど薄暗いホームに、よく目をこらせば物乞いの年寄りが横たわっていたりする。私はポケットに唐草模様のチケットが入ってやしないだろうかと探ってみた。出てきたのは前日の安宿の手書きレシートだった。
荷物を足元に引き寄せ、ブーツの紐を結んでから顔を上げたとき、ホームのその先から光が射しているのに気が付いた。
「ここからが本当の旅のはじまりだ」
声に出してそう言った。コルカタの床屋で髪を切ったMの横顔は、もう昨日とは違って見えた。私は大急ぎで目の前のホームをカメラに閉じ込めた。自分の2011年の扉が開いた瞬間だった。それから私達は荷物を背負い、霧にむせながらガヤの町へ続く階段を降りて行った。その先の事は何ひとつ決まっていなかった。けれど「何処へだって行けるチケットを、わたしは持っているんだ。。。」そう思って、さっきのレシートの四角をポケットの上からなぞってみた。そう、唐草模様の、ね。
DAY4②へ続く・・・・・
このインド旅日記は、私が2011年の年明けに、8歳の長女と共に初めてインドに約2週間の旅に出た時の記録です。そして、この「DAY4 夜明け 本当の旅のはじまり」は、皆様への新年のご挨拶にかえて、DAY1よりも先に書き記していたものを、前回のDAY3の続きとしてここに多少の表現の修正を加えて再度UPさせて頂きました。
個人的な旅の記録をここに記載することに、どこか意味を見出せないまま書き始めましたが、2010年秋に書いた長女との初めての2人旅「LUNGTA探しの旅 2010」が、その後も沢山の方々に読んで頂いていることに背中を押され、このインド編も書き始めました。
3.11の日を境に、私は書くことをやめてしまいました。
様々な情報に翻弄され、気持ちばかりが忙しかったせいもありますが、心の中には(こんなモノを書いて何の為になろうか。。。)という気持ちが強くなっていきました。3.11後は、とにかく僅かでも自分が何かの役に立ちたかったし、世の中の皆がそう思わずにはいられない状況で、それは今も続いているのですから。そんな訳で、この日記はおろか自分が10代の頃から無意識に続けて来た「書く」という事がすっぽりと日常から抜け落ちていきました。
書きたい、という気持ちは数日前に突然降ってきました。ある方に頂いた便りが真っ直ぐで温かかったからです。私はこのくだらない、何の役にも立たない日記を書き続けようと思います。ただ、「自分が自分であり続ける為に」、です。
最後に、、、3・11を境に自分の中では色々なことが変わったり変わらなかったりしましたが、あくまでも旅した時の気持ちはそのままを書き付けていこうと思います。それがもし、「今」にそぐわなくても、もうインドでの出来事や気持ちは変えられないからです。「今」と「その前」の自分との板ばさみになりながらも、何とか最後まで書きたいと思います。ただ、自分が自分である為に。
あや
おかえり~♪女同士、新鮮な旅をしてきたかい?
Mちゃんにとっても素晴しく記憶に残る旅になっただろうね。少し羨ましく思います。Ayaちゃんのいない間、残った3人の子達が熱を出したと聞いていて、何か持って行こうと思ってけどAyaちゃんのいない家に行くのは私の下心と妄想がバレそうで結局行けなかった。力になれなくてスマン・・。夢の世界から現実の世界に戻ってきて又、通常の日々が始まったね。たまに息抜きは必要でそれがあるからパワフルなAyaちゃんがいるんだろうね。次こそはAyaちゃんがいなくても家に行くぞ~!な~んてね*^^*
そのうち、ユックリ会いましょう♪
投稿情報: ハオハオ母 | 2011/01/20 10:53
おかえりなさい!
会いたいよ!!
投稿情報: えりか | 2011/01/20 15:33
ハオハオ母さん
只今!いつもありがとう。息抜き、というよりも息詰め、に行ってました(笑)。なのに食べ過ぎて太ってきました。今は、Mの自由研究の宿題をやっつけるべくアタフタした日常に戻っています。今年もこんな自分を宜しくです。私不在の際は、いつでも辻谷家に上がり込んで下さい。きっと美味しいお茶がでてくるからねえ。
あや
投稿情報: katz | 2011/01/20 17:24
えりかちゃん
私も会いたいよ!フェネトレの美味しいご飯食べにいくからね。アッキくんやヒマに宜しくです。近いうちお邪魔します!
あや
投稿情報: katz | 2011/01/20 17:27
お帰りなさい!
正月明け、辻谷家の前を通るたび何かいつもと違う空気を感じつつ、でも旅に出ていたのを知ったのはスケート教室のときでした^^:
そして3人の不調を知ったのも週明け…
全てが後手後手の中何か出来ないかしら…と思っていた矢先今度は我が家がインフルに襲われてしまいました。
(なんとも情けない。。。)
こんな我が家ですが今年もヨロシクです☆
Mちゃんの自由研究は旅のことかな?楽しみです♪
投稿情報: mappiママ | 2011/01/21 20:42
mappiママさま
只今!いつも本当にありがとう。そちらももうインフルエンザの波は越えたかな?2週間ばかり家を空けて戻ってみると父親を柱に素晴らしい生活リズムができておりますます母親としての自覚が薄くなっています(笑)家族やmappiママはじめ色んな人たちに支えられて、本当にシアワセを実感中!今年もよろしくね。K家の天才達もノビノビとハッピーな毎日でありますように!!!
あや
投稿情報: あや | 2011/01/22 00:00
読んでしまった…。いろんな思いがずっしりきました。何か突きつけられたような気持ちになりました。文ちゃんの内面は広くて大きくてとても深いんだね。弟子屈に在る文ちゃんの、二人の発信するものはとても尊いです。あなたがあなたであり続けられるように、全ての方々が自身であり続けられますように…。そして私も自分で在りつづけられますように。出会えて同じ時間を過ごせたことがとてもうれしいです。ありがとうね。
投稿情報: くまちゃん | 2011/06/12 09:27
くまちゃん
いつも遠くからありがとう!!
くまちゃんの存在は、私が北海道に来てから唯一私がわたしでいられる友達でした。
毎日いろんなことがあり、見たり聞いたり聞いたり考えて行かなければいけないことが本当に沢山あります。でも、その中でも自分が自分であり続けることをやめてはいけないような気がしています。どうしてかは上手くいえないけれど。
くまちゃんもくまちゃんで居てください。
そして、そんなに遠くないいつか、また一緒に遊んでいるような気がするよ。だって、お互いにそれを望んでいるのだから。
ありがとう。嬉しかったよ!!!
投稿情報: あや | 2011/06/14 09:07
「誰か」が受けとった時、意味のあるものになるのだと思います。
わたしには、今意味のあるものになりました。
あやさんは素敵な人だと思います。
ありがとう。
投稿情報: 知り合いではありませんが・・・ | 2012/04/07 11:04
知り合いではありませんが・・・様
自分の書いたものが、どなたかに受け取って頂ける。。そういう事を想像したこともありませんでした。頂いたメッセージはアナタが思う以上に私の心に沁みました。今日は思いがけない贈り物を頂いた気持ちがします。書いた自分でさえ、ポケットの中の唐草模様のチケットのことを忘れてしまうことがあって。今日は久しぶりにふと思い出してポケットをなぞりました。ありました、ちゃんとココに。本当にありがとうございます。また近いうち、INDIAの続きを書こうと思います。
投稿情報: あや | 2012/04/08 01:30