その日が何年の何月何日の事だったかは僕たちにはわからないけれど、僕達はこの間の夏の日の事を決して忘れる事はないのだ、、、
去年のクリスマスの朝の事だったのです。僕たちが朝目を覚ますと、枕の所にサンタさんからのプレゼントが届いていました。それは僕たちが欲しくて欲しくてたまらなかったあのヒーローのマスクだったのだ!
僕たちは嬉しくて嬉しくて何度も何度も闘いごっこをしたのだけれど、本当のタイガーはいくら待ってもやって来ませんでした。お母ちゃんに聞くと、お母ちゃんは『そうねえ、いつかきっと来てくれると思うよ』と言ってはいつも忙しそうで、お姉ちゃんに聞くと『来る訳無いじゃんか、こんな所にまで!』と言ってはエルカネックのような反則攻撃をしてくるのでした。
そして、どんどん季節は流れて春になり、僕たちは5歳になりました。
暖かくなると山に住む僕達の家の周りには色んな生き物がでてくるよ!
そんなある日の事でした。いつもの様に保育園から帰ってくると、父ちゃんが僕たちを呼んで、ちょっと鼻の穴を大きくして言ったのです。『遂にタイガーがやってくるよ!2回寝たら父ちゃんと一緒にタイガーのマスクを被って応援に行こう!!』僕たちはもうタイガーはやって来ないと思っていて、父ちゃんは少し嘘つきだなあと、思っていたので胸がドキドキしました。そして学校から帰って来たお姉ちゃんに『タイガーが来るんだって!父ちゃんと一緒に観に行く!!』というと、お姉ちゃんも嬉しそうに、お父ちゃんの所へ行ったけれど、自分の分のチケットが無くて行けないとわかると、やっぱり僕達にMr.NOのような反則攻撃をしてくるのだった。
そして、その日は遂に来た!!いつもより早く保育園が終わった僕たちは父ちゃんの車に乗り込みタイガーが試合のするという白糠町という町に初めて向かったのだ。途中の車の中で、父ちゃんに『父ちゃん、今日は猪木先輩は来てるか?』と聞くと『猪木先輩は忙しいからどうかなあ、でもねえ今日は鈴木みのるが来るんだって!』と言いました。僕達は『鈴木みのる』のことは知らなかったけど父ちゃんが言うには、悪くてとにかく強いということでした。僕達は『鈴木みのる』という名前を何度も言っては憶えました。『あと獣神サンダーライガー選手も来るからね!』と父ちゃんがいいました。なんだかカッコ良さそうな名前でドキドキしました。でも僕たちが観たかった、『エルカネック』や『Mr.NO』や『大門選手』は来ないとの事でちょっと残念でした。僕は父ちゃんに『父ちゃん、馬場先輩は来るかい?』と聞くと、父ちゃんは前をじーっと見て運転しながら何も言わなかったので、僕はお母ちゃんに前に同じ事を聞いて、お母ちゃんが『馬場先輩はお星様になったんだよ』と言っていたのを思い出して、なんとなく今日は来ないんだなあと思いました。
ずいぶん長い間僕たちは車に乗って、海の見える町までやって来ました。海には船が沢山沢山泊まっていました。僕達はお父ちゃんと、おじさんとおばさんがやっているラーメン屋で美味しいしおラーメンを食べて、プロレス会場に行ったのです。会場の大きな体育館の駐車場に車を停めると、お父ちゃんはタイガーのマスクとマントをだして、僕達にちょっと真剣な顔をして言いました。『いいかい、マスクマンはね、絶対に顔や正体が他の人にバレたらダメなんだよ!』『あと会場のどこかにはMr.Xが観てるかもしれないからね!』そう言って僕達にマスクを被せてくれたのです。僕達はもし正体がバレたらどうしようかとドキドキしました。もし正体がバレたら、もう保育園のみんなにも会えないかもしれないし、母ちゃんにも会えなかったらどうしよう!
はじめてのプロレスの会場には本物のリングがありました。お父ちゃんのお友達のゴッチさんがリングサイドのチケットを用意してくれていました。リングは僕たちが観た事のあるリングよりもずっとずっと広く見えました。大きな画面ではチャンピオンの棚橋選手が大きな大きな外国の選手と闘っていました。何回やられても何回やられても棚橋選手は立ち上がって、そして最後には勝ちました!! その時です、一人のおじさんがやって来て、僕たちに言いました。『ボクたち、タイガー選手がボクたちに逢いたいって言ってるよ!おじさんと一緒においで!』僕たちはドキドキしました!お父ちゃんは興奮して『やったー!よかったねえ、よかったねえ!』と言いました。僕たちはおじさんの言う通りにお父ちゃんとおじさんの後をついて行きました。『ここで待っててね』とおじさんが言うので待っていたら、、、、、
小島選手がやって来たよ!おっきな手で握手をしてくれたよ!そして、、、、、遂に!!
タイガーマスクと逢えたのだ!でも本物のタイガー選手にボクたちはキンチョーしてしまい、お父ちゃんは興奮して手が震えて記念撮影がブレてしまったのです。タイガー選手はボクたちに、『カッコいいなあ!』と言ってくれました!ボクはもしかしたら、どこかでMr.Xが観ていて、正体がバレたらどうしようと思ってドキドキしていました。タイガー選手はボクたちに『よし!今日は僕は最後の試合だから、一緒に入場しよう!!』と言いました。お父ちゃんは5㌢くらい跳んで喜んで、『良かったなあ!良かったなあ!!』と本当に嬉しそうでした。でもボクたちは意味が分かりませんでした。そして、いよいよ、試合が始まりました。
小島選手と真壁選手、獣神サンダーライガー選手の試合だ!鈴木みのる組に負けそうだったけど、最後は勝って、ライガー選手が試合の後に握手しに来てくれたのだ!負けた鈴木みのるがボクたちの所へやって来て、『お前らがそんなの被ってるから負けちまったじゃねーかっ!!!』と言って来て、ボクたちはとても怖かったけど、鈴木みのるはお父ちゃんが言う様に、とても強くて悪かったのだった。小島選手も真壁選手もライガー選手もとても強くてかっこ良かった!そして、またおじさんがやって来て、『よし!ボクたち、おじさんと一緒に行こう!次がタイガー選手の試合だよ!』と言って、ボクたちの手を引いて行くのでした。
夢にまで見たタイガーマスクとボクたち!!で、でも、も、もしかしてボクたちもこれからタイガーと一緒に闘うのかなあ、、、、、
そして、ボクたちの所に握手に来てくれたのだった!ありがとう!タイガーマスク!!
試合が終わると、色々な人がボクたちと写真を撮ってとやって来ました。ボクたちは恥ずかしかったけど、嬉しかったです。最後もタイガーに逢いたかったけれど、お母ちゃんが待っているので、ボクたちはお父ちゃんと弟子屈まで帰る事にしました。駐車場の車のなかでボクたちは、やっとマスクを外しました。僕は本当に正体がバレなくて良かったです!あと、タイガーと一緒にリングに上がった時は、本当に一緒に闘うかと思って、ドキドキしました。初めて見るプロレスは本当に凄かったです。お父ちゃんとお母ちゃんが言う様に、ご飯を残さないで野菜も残さないで食べないとあんな風に強くなれないんだなあと思います。タイガーマスクは大きくって、腕が樹のように太くって、とても優しかったです。ボクたちは、またいつかタイガーマスクが近くにやって来たら、応援に行きたいと思います。家に帰ったらお姉ちゃんも次は私も連れてってと、お父ちゃんに頼んでいました。ボクたちがダメだよーと言ったら、邪道、外道みたいに髪の毛を引っ張ってきました。ボクたちのお姉ちゃんは、プロレスラーになったら、きっといい悪役になると思います。帰りの車ではボクたちはグッスリ眠ってしまいました。気が付いて起きた時には朝になっていました。僕は昨日の事が夢みたいでした。お父ちゃんが言うには、タイガーマスクは、今日もボクたちの行った事のない遠くの町で闘っているそうです。ボクたちはタイガーマスクが大好きです。ガンバレ!ガンバレ!タイガーマスク!!
[追記]
この、親子プロレス観戦珍道中は去る7月20日に私たちの住む弟子屈町から車で1時間半走った太平洋側の町、白糠町にて行われた、新日本プロレスチャリティー興行でのことです。二人の息子たちは3歳すぎたある日に、レンタルしてきたアニメ『タイガーマスク』の虜になりました。以来、2人の闘いの種類に仮面ライダーの他にプロレスが加わりました。プロレスは男と男が裸でぶつかり合い、必殺技が炸裂する2人が初めて観る男と男の闘いだったんだと思います。2人が日々繰り広げる闘いごっこを見ていると、自分が幼かった日に友達がタイガーマスク役で、自分がダイナマイト・キッドになり雪の中にパイルドライバーをしたりされてりしながら遊んだ事が思い出されました。タイガーマスクがやって来ると伝えた数日前から、2人はプロレスを観に行けるのを本当に楽しみにしていたのですが、会場の駐車場で私が話した、『マスクマンは決して正体がバレてはいけない』という事と『Mr.Xがどこかに居るかもしれない』というのが心底響いたらしく、そして生まれて初めて接したプロレスとプロレスラー、そこに集まる人々、会場の雰囲気に圧倒されてしまい、普段からは考えられないくらいおとなしくなってしまったのでした。2人でタイガーマスク選手と入場した際には、事態を全く把握していなかった様で、帰りの車に中で『どうだった?!』と聞くと、『ホントに一緒に闘うかと思った、、、』と呟いて次にはもう寝息をたてていました。なにはともあれ、世代を超えた男3人でのプロレス観戦は忘れられないこの夏の思い出になりました。どうか、皆さん笑って頂けましたでしょうか?笑ってやってください♪最後に、この白糠興行に向かう事が出来たのは、友人である福田ゴッチさんのお陰です。本当にありがとうございます。また、子供とはいえ、日々選手のみなさんが命をかけて闘っているリングに2人の子供たちをあげて頂きました、新日本プロレスさん、全選手の皆さん、そして、タイガーマスク選手に心から感謝致します!!本当にありがとうございました!!
タイガーマスクは世代を超えて、、、、、
続く、、、、、、、?
いや~面白かった
投稿情報: ポロンヌG | 2011/08/02 09:26
なんか、笑い泣きしてしまった〜。
ほんとによかったね、おばちゃんも観に行きたかったなぁ。
カッコイイタイガーマスク姿、いつか見せてね!
投稿情報: Mootookoo | 2011/08/02 21:04
ポロンヌGさま、お楽しみ戴けた様でなによりです♪こんな時代に突入してしまった我らの朝でありますが、いつも僅かの希望とユーモアと笑いは持っていたいものだなあと思いますです。あとやっぱり男の子はちょっとバカなくらいが良いですね♪またそのうちゆっくりと一献。
Mootookooさん。いつもいつもアホなワタクシ達家族を、見守って頂きありがとうございます♪同じ時代に生まれたジェネレーションのワタクシ達と、ワタクシ達の子供達の未来が明るくてワクワクしたものとなるように、願っています。どうかいい風に乗ってフワフワとその心が飛んで行ってもらいたいものです。ちなみにワタクシは同じくらいの6歳の時に、わが町に大相撲巡業が来た際、仕度部屋である中学校に体育館で高見山関においでおいでされて、抱っこされ、ビビって号泣した記憶があります。その事を思い出すと、よく2人とも泣かなかったなあ、少なくとも、当時の自分は越えているなあ、などと思ってしまうのでした。どうかお互い残り少ない夏を楽しく過ごしましょ♪
投稿情報: katz | 2011/08/02 22:05
すばらしいね!!!
泣きましたわ!
投稿情報: おかっぱ | 2011/08/03 15:16
おかっぱ様、どうもありがとうございます!楽しんで頂けた様でなによりです^_^今年の夏は暑すぎなくて、久しぶりに東北海道らしい夏ですね!森の甘い香りがするのもあと僅か、どうか良い夏をお過ごしくださいませ♬
投稿情報: katz | 2011/08/04 08:21